大学進学で宇都宮を離れ、大学卒業と同時に都内のレストランで働き始めた藤永さん。「料理の仕事に就くことがずっと夢だったんです」東京のレストランに勤め、イタリアンをベースにした料理を修業していた。宇都宮に戻ったきっかけは2011年の東日本大震災。「いつかは宇都宮に帰って自分の店を持ちたいと思っていました。そんなときにあの震災があって。この機会に地元に帰ろうと決心しました」
地元で採れる新鮮な野菜をおいしい料理に変身させて日々提供している藤永さん。ランチタイムはお母様と二人三脚で営業しているそう。
『トモッティーナの喜び』は新鮮野菜の下になんと6~7種類の野菜料理が隠れている。
宇都宮に戻り物件を探していたとき、たまたま出会ったのがこの大谷石の建物だった。「見た瞬間、一目で気に入ってしまって。ここ以外はもう考えられませんでしたね」しかし上質な大谷石を使っているとはいえ、周囲に草が生い茂り、築60年ほど経つ建物の内装はボロボロ。さらには中心部から離れた大谷町という立地。「周りの人からはずいぶん心配されました。でも綺麗にすればいける、という確信があったんです」
カフェ「トモッティーナ」のオープンの際は、宇都宮市の大谷石利用促進補助制度を利用し、補助金を受けた。「補助金などは近所の石屋さんからアドバイスしてもらいました。都内で勤めているときはあまり近隣とのお付き合いもなかったので、宇都宮で人とつながりが作れてよかったと実感しました」
もともと事務所として使われていた大谷石の建物。天井や窓枠に当時の面影が残る。
2015年には川沿いに大谷石を使ったテラス席を増設。
野菜料理を中心に展開する藤永さんは、店を始めてから宇都宮の農業の魅力に気付いたという。「採れたてはこんなに味が違うのかと驚きました。新鮮な野菜が安く買えるし、それを自分の目で実際に見て選べる。このおいしい野菜を一人でも多くの人に知ってもらいたいです」週末は大谷の観光がてら立ち寄る県外の客も増えてきた。「県外から来た人がファンになってくれることがあるんですよ。少しでも宇都宮の農業の魅力を発信する手助けができたらうれしいです」とはにかみながらも力強く語ってくれた。
長年守り継がれてきた大谷石の文化が魅力的。おいしい野菜がこんなに身近にあることにも驚きました。